
AMDは2025年の財務アナリストデーで、2027年に新たに投入する「Medusa」AIプロセッサが、2024年以降のAI計算性能を10倍に引き上げることを発表した。さらに、2026年に発売予定の「Gorgon」シリーズも同時に明らかにし、同社のAIチップ戦略が加速する姿勢を示した。
AMDのAIプロセッサロードマップ
AMDは2027年に「Medusa」ブランドのRyzen AIプロセッサをリリースし、2024年からの累積性能向上率を10倍とする目標を掲げている。この目標は、CPUコア数の増加だけでなく、AI専用アクセラレーションユニットの拡張や、メモリ帯域幅の大幅改善に基づく。
同時に、2026年に投入予定の「Gorgon」シリーズは、ミッドレンジ向けに設計されたAI機能強化版Ryzenプロセッサで、ゲームやクリエイティブ用途におけるAI推論性能を向上させることを狙いとしている。
業績見通しと価格戦略
AMDは2025年のクライアントおよびゲーム事業の合計売上が140億米ドルを超えると予測し、前年同期比で50%以上の成長を見込んでいる。クライアントPCの売上シェアは、2023年の15%から2025年には約28%に拡大し、中期的には40%以上を目指す方針だ。
さらに、同社は2025年のクライアント向けプロセッサの平均単価が2023年比で1.5倍になる見込みであるとし、2025年から2030年にかけてクライアントとゲーム事業の売上が現在の3倍以上に成長すると予測している。
中国市場におけるAIチップ競争の背景
中国は近年、AIチップ開発に国家規模の投資を行い、華為(Huawei)や寒武紀(Cambricon)といった企業が独自のAIプロセッサを市場に投入している。中国政府は2025年までにAIチップの国内シェアを70%以上に引き上げる目標を掲げており、国内メーカーは性能向上とコスト削減を同時に追求している。
このような環境下で、AMDが掲げる「Medusa」の10倍性能向上は、中国のAIチップメーカーに対抗する上で重要な差別化要因となり得る。特に、データセンター向けの大規模推論や、エッジデバイスでのリアルタイムAI処理において、AMDのCPU+GPU統合アーキテクチャは中国企業が提供するASICベースのソリューションと競合する形になる。
日本市場への影響と期待
日本のPCメーカーやゲーム開発企業は、AMDのCPUシェアが拡大するにつれ、開発ツールや最適化ソフトウェアの対応を進めている。特に、AI生成コンテンツやリアルタイムレイトレーシングを活用した次世代ゲームにおいて、CPU側のAI推論性能がボトルネックになるケースが増えている。
「Medusa」プロセッサが2027年に実装されれば、開発者はCPUレベルでのAIアクセラレーションを前提に設計でき、GPUへの依存度を下げつつ高効率な処理が可能になる。これにより、開発コストの削減と製品の差別化が期待される。
今後の展望と課題
AMDが掲げる性能目標は、AIアルゴリズムの急速な進化と相まって、実際の市場投入時にどれだけ実現できるかが鍵となる。特に、メモリ帯域幅や電力効率の課題は、データセンターやエッジデバイスでの採用を左右する。
また、中国市場における規制強化や、国内メーカーの価格競争力が高まる中で、AMDは価格設定とサポート体制の両面で競争力を維持する必要がある。日本の企業にとっては、AMDのロードマップを踏まえた早期の技術評価と、パートナーシップ構築が重要になるだろう。
AMDの「Medusa」および「Gorgon」シリーズが実際に市場に投入されるまでには数年の時間があるが、同社のAIチップ戦略は、グローバルなAIインフラ市場に新たな選択肢を提供する可能性を秘めている。



