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2025/11/01

YouTube音楽ブロガーがAIで作った日本金属ロックがTikTokで急拡散—Sunoなど生成系ツールの実験結果

AI音楽生成ツールの現状と中国市場の背景

近年、生成系AIが音楽制作の領域にも進出し、米国や欧州だけでなく中国でも多様なサービスが登場している。中国の大手テック企業は、音声合成や楽曲自動生成を組み込んだプラットフォームを提供し、ユーザーが簡単に楽曲を作成できる環境を整えている。代表的なツールとして、米国発のSunoやMureka、ElevenLabs、Udioといったサービスが国内でも広く利用されており、YouTubeやTikTokといった動画プラットフォームと相性が良いため、短時間で拡散力の高いコンテンツが生まれやすい。

実験の概要:ブロガーが挑んだ「叫び」プロンプト

今回取り上げるYouTubeの音楽ブロガーは、AIがどこまで人間の感情やノイズを楽曲に取り込めるかを検証するため、意図的に「咆哮」や「大声で叫ぶ」などの非音楽的入力を行った。使用したツールはSuno、Mureka、ElevenLabs、Udioの4つで、各ツールに対し同一の音声サンプルを入力し、生成された楽曲を比較した。

ブロガーは、まず自らの叫び声をマイクに向けて録音し、これを「プロンプト」としてAIに提供した。さらに、Yoko Onoが90歳の誕生日に行ったとされる「行為芸術」的な叫びを模倣し、意味のない音声でもAIが楽曲化できるかを試した。

意外な成果:日本金属ロックとメッシュガ風サウンドの出現

生成された楽曲の中で最も注目を集めたのは、Sunoが作り上げた日本語金属ロック風のトラックである。タイトルは『My Name is Jeff』の前奏が特に評価され、プロンプトに含めた多数のジャンルキーワード(例:メタル、スウェーデン、Meshuggah風)と相まって、スウェーデンのプログレッシブメタルバンドMeshuggahに似たリズムとギタートーンが再現された。

さらに、ブロガーが無秩序に叫んだ音声がAIに認識され、日本語の歌詞として解釈された結果、『Isugaku:Never Say Goodbye』というタイトルの和風ヘヴィメタル曲が生成された。AIは音声の音韻パターンを日本語の音節にマッピングし、従来のポップスでよく使われるコード進行と組み合わせることで、意外なまでにまとまりのある楽曲を作り上げた。

創造性と限界:AIが学習する音楽の「特徴」

AIが楽曲を生成するプロセスは、膨大な楽曲データベースから和音・旋律・リズム・構造といった「特徴」を抽出し、統計的に最も確率の高い組み合わせを出力するというものだ。ポップスはコード進行が限られ、リフレインが多いため、AIは短時間で「聞きやすさ」のパターンを学習できる。一方で、抽象的な感情や独自のメロディックフレーズは、データに依存しすぎるために創造性が限定される。

ブロガーが試した「技能五子棋」系の楽曲は、AI単体では再現が難しいと指摘された。AIが生成した歌詞は文法的には問題なかったが、ユーモアや意外性といった要素が欠如し、結果として「無味乾燥」な楽曲に留まった。実際に、ブロガーは元の動画で使用された「ラジオ体操」風のリズムをAIに学習させるため、カスタムモードでサンプル音源をアップロードしたが、最終的に得られたバリエーションはジャンルが散漫で、オリジナルのインパクトには及ばなかった。

中国におけるAI音楽生成の今後

中国国内でも、AI音楽生成はエンターテインメント産業や広告、ゲーム音楽の制作に活用が進んでいる。例えば、テンセントやバイドゥが提供するAI作曲サービスは、短時間で数十種類のメロディを生成でき、クリエイターが手軽に試作できる環境を提供している。これにより、インディーズミュージシャンやライブ配信者が独自の楽曲を手軽に作り、プラットフォーム上で拡散させるケースが増えている。

しかし、今回の実験が示すように、AIは「特徴」の再現は得意でも、独自の「記憶点」や「意外性」を持つ楽曲を生み出すには、やはり人間のクリエイティブな介入が不可欠である。中国のAI音楽市場が成熟するにつれて、AIと人間の協働が標準的な制作フローになる可能性が高く、今後はプロンプト設計やサンプル提供の高度化が鍵となるだろう。

まとめ:AIはツール、創造は人間の領域

今回のYouTubeブロガーの実験は、AIが予想外のジャンル融合や言語変換を行えることを示した一方で、楽曲の核心にある「面白さ」や「記憶に残るフック」は、依然として人間の感性に依存していることを浮き彫りにした。AIは大量の楽曲データから統計的に正しい構造を作り出す「作曲機械」だが、そこに独自のストーリーやユーモアを付加するのは、クリエイターの役割である。

AIと人間が互いの強みを補完し合うことで、今後はさらに多様で斬新な音楽コンテンツが生まれることが期待される。

出典: https://www.ifanr.com/1642783