OnePlusの歩みと中国スマートフォン市場の位置付け
OnePlus(ワンプラス)は、2014年に中国で設立された比較的新しいメーカーでありながら、創業当初から「高品質・低価格」のスローガンで海外市場に本格参入した。Android端末が多数のメーカーで乱立し、OSの断片化が深刻だった時期に、同社はほぼ純正Androidに近いクリーンなユーザー体験を提供し、欧米のテックメディアから高い評価を受けた。
同時期、国内スマートフォン市場は「ガラス三層」構造が主流となり、デザイン面での差別化が難しくなる中、OnePlusはCMF(カラー・マテリアル・フィーリング)という概念を早期に取り入れ、素材感と手触りにこだわった製品を展開した。これにより、同社は「ハイエンドの中国ブランド」としての地位を確立した。
OPPO傘下への統合とブランドの変容
2021年以降、OnePlusはOPPO(オッポ)傘下の「歩步高」グループに組み込まれ、経営上の独立性が徐々に低下した。創業メンバーの一人が退社し、残された経営陣はグループ全体の事業調整に追われるようになった。その結果、かつての大胆なデザイン実験やハス(Hasselblad)とのカメラ共同開発といった差別化要素は、契約満了とともに終了した。
それでもOnePlusは中国国内で最も成長率の高いブランドの一つであり、販売台数は増加傾向にある。しかし、製品ラインナップは他の大手メーカーと似通った仕様になりつつあり、かつての「鋭さ」が薄れたとの指摘もある。
OnePlus 15「原色沙丘」モデルの特徴
2023年に発表されたOnePlus 15は、名称に「Ultra」を付けないものの、ハイエンド機としての性能は十分に備えている。価格帯は中間的で、極端なコストパフォーマンス追求ではなく、バランスを重視した設定となっている。
本機の注目点は「原色沙丘」エディションに採用された素材技術だ。フレーム部分には航空宇宙分野で培われた「微弧酸化(micro‑arc oxidation、別名プラズマ電解酸化)」が用いられ、金属表面に微細な酸化陶膜が形成される。この工程は高電圧のパルスを金属フレームに流し、酸素や電解液中のイオンと瞬時に反応させて硬度と耐食性を高めるもので、従来の陽極酸化や塗装とは異なる自然な微細テクスチャが得られる。
完成したフレームは光を受けると不規則な星屑のような反射を示し、手に取ると陶器に近い滑らかさと重厚感が感じられる。耐摩耗性が高く、長期間使用しても外観が劣化しにくい点も評価されている。
デザインと工学の融合が示す意味合い
この微弧酸化技術は、従来は航空機部品や医療機器、車両の重要部品に限定されていたが、OnePlus 15で初めてスマートフォンに応用された。素材科学と工業デザインが交差することで、単なる「実用品」以上の「芸術品」的価値を提供しようとする試みは、同社が十年にわたって追い続けてきた「不妥協」の精神を象徴している。
実際、OnePlusのデザインチームは「原色沙丘」の名称に、フランク・ハーバートのSF小説『砂丘』に登場する原始的かつ未来的な世界観を投影したと語っている。荒野の砂と金属の冷徹さが融合したイメージは、現代のスマートフォンが抱える「完璧だが味気ない」デザイン潮流に対する一種の反逆でもある。
市場の潮流とOnePlusの今後
現在のスマートフォン市場は、画面サイズやプロセッサ性能、カメラ画素数といった数値指標がほぼ均一化している。その中で、ユーザーが実感できる差は「触感」や「視覚的質感」といった感覚的要素にシフトしつつある。OnePlus 15は、こうした感覚価値を高めることで、ハイエンド機の中でも差別化を図ろうとしている。
しかし、ブランドが大企業の傘下に入ったことで、将来的にどこまで独自路線を維持できるかは不透明だ。市場は依然として価格競争が激しく、技術革新のスピードも速い。OnePlusが再び「不将就(妥協しない)」という姿勢を全面に出すには、経営資源とデザイン哲学の両立が求められる。
結局のところ、OnePlus 15「原色沙丘」は、数値スペックだけでは測れない「触覚的な喜び」を提供することで、限られたユーザー層に強い印象を残すことに成功したと言える。十年の歴史の中で、同社がどのように変化し、どこに向かうのかは、今後の製品発表と市場の反応に注目したい。