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2025/10/24

テスラと比亜迪、下向きと上向きの戦略が交錯する電動車市場の現状

テスラの最新決算と課題

米国時間10月23日、テスラは2025年第三四半期の決算を発表した。納車台数は49.7万台で過去最高を記録し、売上高は前年同期比12%増の281億米ドルとなり、ウォール街予想を上回った。これはテスラ創業以来の最高四半期売上でもある。

しかし、純利益は13.7億米ドルにとどまり、前年同期比で約40%減少した。親会社帰属純利益率は4.9%で、前四半期の5.3%から0.4ポイント低下した。

売上は主に米国市場での補助金(最大7,500米ドル)の終了前に集中した需要が支えたことが要因とされる。中国市場では9月に投入された3列シート版Model Y Lが販売を押し上げたが、欧州市場は貿易摩擦やイーロン・マスク氏の政治的姿勢の影響で伸び悩んだ。

利益減少の根本は、車両販売自体の収益性が大きく変化したわけではなく、研究開発費と設備投資が大幅に増加したことにある。研究開発費は16.3億米ドル、資本支出は22.5億米ドルで、合計38.8億米ドルがHW5.0チップ、ロボタクシー、Optimusロボットなどの将来事業に投下された。次四半期の資本支出は28.7億米ドルに増える見通しで、FSD(完全自動運転)やロボタクシーの商業化が目的とされている。

しかし、FSD V14の有料利用率は低く、確認収益は前年同期比で減少。ロボタクシーは大規模テスト段階にあり、運用許可取得も課題だ。Optimusロボットはプロトタイプの発表が遅れ、量産開始は2026年末に延期された。

このような状況でテスラは「下向き」戦略として、既存モデルの減配と価格引き下げに踏み切った。10月上旬、米国でModel Y標準版が4万米ドル未満、Model 3標準版が3.7万米ドル未満で販売開始された。中国市場への適用は未定だが、米国での約11~13%の価格低下がそのまま適用されれば、国内での販売価格は約20万~23万元になる可能性が指摘されている。

比亜迪の業績と成長戦略

比亜迪は2025年前9か月の累計販売台数が326万台で、前年同期比18.6%増加した。年間目標の460万台のうち約70%を達成したが、9月の販売台数は39.6万台で、前年同月比5.5%減少した。

利益面では、2025年第2四半期の親会社帰属純利益が63.5億元で、前年同期比30%減少した。これは比亜迪が3年以上続けてきた四半期利益の伸びが初めて後退したことを意味する。売上総利益率は18.7%に低下し、1台あたりの純利益は約5,000元となり、市場予想の8,000元を下回った。

比亜迪の課題は価格競争だけでなく、技術とビジネスモデルの転換にある。かつてDM5.0プラグインハイブリッド技術で市場シェアの半数以上を占めていたが、吉利の雷神電混や長城のHi4など競合が「低価格・高装備・大空間」を掲げて追い上げ、シェアは約40%から28.9%に低下した(TrendForce調べ)。

同社は高度に垂直統合された重資産型ビジネスモデルを採用し、電池・電装・モーターを自社で製造している。販売台数が減少すれば固定資産の減価償却費が車両単価に上乗せされ、コストが上昇する。2025年第2四半期は海外工場建設とスマート化開発に資本支出を拡大し、単車コストは11.2万元から1万円上昇した。

比亜迪は「上向き」戦略として、腾勢(テンシン)や仰望(ヤンワン)といった高級ブランドの展開と、積極的なグローバル展開を進めている。2025年上半期の海外販売台数は47万台で、前年同期比で1.3倍増加。特に欧州市場は販売台数が3倍に拡大し、現地での販売価格が高めに設定されているため、利益率の改善に寄与している。

国内では2026年からの新たな購買税減免基準(走行可能距離が43kmから100kmへ引き上げ)により、プラグインハイブリッド車の価格優位性が縮小する。比亜迪はこの対応として、9月に秦PLUS DM‑i 128kmバージョンを投入し、純電走行距離を伸ばすことで政策変更に適応しようとしている。

両社の戦略が示す市場の行方

テスラは「下向き」戦略で価格を下げ、量を確保しつつAI関連事業で高い評価倍率(約283倍)を維持しようとしている。一方、比亜迪は「上向き」戦略で高級ブランドと海外市場を拡大し、評価倍率は約20倍と低いが、実績ベースでの成長を追求している。

もしテスラの低価格モデルが中国市場に本格投入されれば、比亜迪の主力セグメントと直接競合することになる。逆に比亜迪が海外での販売と高級車のシェアを拡大し続ければ、テスラの市場シェアは相対的に縮小する可能性がある。

両社の戦略は一見対照的だが、実際には同じ市場でのシェア争奪という共通の課題に向き合っている。価格戦争と技術投資のバランス、そしてグローバル展開のタイミングが、今後の電動車市場の勢力図を決定づけるだろう。

テスラの時価総額は約1.49兆米ドルで、比亜迪(香港株式)は約9,473億香港ドルにとどまる。評価倍率の差は約14倍であり、投資家は「未来」の実現可能性と「現在」の収益性をどう評価するかが焦点となる。

結論として、テスラが価格低下でシェアを拡大できるか、比亜迪が高付加価値と海外市場で利益を伸ばせるかが、次の数年間の電動車市場の勝者を決める鍵となるだろう。

出典: https://www.huxiu.com/article/4796284.html?f=wangzhan

2025/10/16

寧徳時代(CATL)の業績と市場展望:バッテリー事業の現状と課題

業績概況

2025年9月時点で、寧徳時代(証券コード:300750)は株価が前年同期比31.3%上昇し、時価総額は約1.83兆人民元に達した。これは同じく中国を代表する企業である貴州茅台(時価総額1.81兆人民元)を僅かに上回る数値で、動的PERは30倍となっている。

しかし、同社の主力事業である動力電池とエネルギー貯蔵電池は、いずれも市場全体の成長ペースに対して伸びが劣っている。高い時価総額が期待感に支えられている一方で、実際の業績は慎重に見極める必要がある。

動力電池事業の伸び悩み

寧徳時代の売上は過去数年で大きく変動した。2020年は売上が500億人民元を突破したが、成長率は10%未満に留まった。2021年は売上が1,303.6億人民元へと159%増、2022年は3,285.9億人民元(前年比152%)に達した。2023年は4,000億人民元を超えたものの成長率は22%に減速し、2024年は3,620億人民元へと9.7%減少した。2025年上半期(1–6月)では1,789億人民元の売上で、前年同期比7.3%増にとどまっている。

2021年以降の高成長は、主に三元リチウム電池へのシフトに支えられた。補助金制度がエネルギー密度を硬い指標としていたため、当時は三元電池が有利であり、寧徳時代はこの市場で大きなシェアを獲得した。しかし、補助金が段階的に廃止され、コスト面で優位性のあるリン酸鉄リチウム電池が再び市場シェアを拡大し、三元電池のシェアは20%以下に低下した。

2024年の中国国内新エネルギー乗用車販売台数は1,105万台で前年比40.2%増、商用車は53万台で前年比17.9%増と急成長したが、寧徳時代の動力電池売上は11.3%減少した。2025年上半期も同様に、国内新エネルギー車販売が587.8万台(前年比35.4%増)である一方、同社の動力電池売上は7.3%増にとどまっている。

エネルギー貯蔵事業の売上減少

寧徳時代が資本市場で高く評価される要因の一つは、エネルギー貯蔵事業への期待である。しかし、実際の売上は逆風にさらされている。2023年の貯蔵事業売上は600億人民元で前年比33.2%増だったが、2024年は573億人民元に減少し、前年比‑4.4%となった。2025年上半期は284億人民元で、前年比‑1.5%の微減にとどまっている。

同期間における世界の貯蔵バッテリー出荷量は、2023年が185GWh(前年比53%増)から2024年は301GWh(前年比62.7%増)へと拡大した。一方で中国国内の新規貯蔵装置容量は前年比27.5%増、世界全体のバッテリー貯蔵システム装置容量は前年比54%増と需要は急速に伸びている。需要増に対し、寧徳時代の貯蔵事業売上が減少している背景には、価格低下と市場の商業化度合いが低いことが影響していると考えられる。

利益率の変遷と要因

寧徳時代の利益率は、政策補助金と原材料価格の変動に大きく左右されてきた。2016年の動力電池平均販売価格は2,060元/kWh、コストは1,130元/kWhで、毛利率は45%に達した。補助金が段階的に減少した2022年には、販売価格が970元/kWh、コストが810元/kWhに落ち込み、毛利率は17.2%に低下した。

2023年以降、炭酸リチウム価格が急落し、2025年には1トン当たり6万元(ピーク時から90%下落)となった。この原材料コスト低下に伴い、同社のバッテリーシステムの毛利率は2023年に19.1%、2024年に24.5%、2025年上半期は23%に回復した。50kWhのバッテリーパックでの毛利益は、2022年が約8,350元、2025年上半期は約7,500元となっている。

このように、寧徳時代は政策補助金と原材料価格という二つの外部要因をうまく利用し、過去10年間で平均毛利率20%超を維持しつつ、出荷量の増加に伴う利益額の拡大に成功している。

換電ビジネスへの取り組みと課題

寧徳時代は「換電」サービスを新たな収益源として位置付け、2022年1月に「チョコレート換電」プラットフォームを発表した。長安、広汽、北汽、五菱、一汽といった大手自動車メーカーと戦略提携を結び、2025年に実装を予定していたが、実際に進展したのは蔚来(NIO)との提携のみで、同社は2025年3月に寧徳時代から25億人民元の出資を受けた。

換電ステーションは、1ステーションあたり23枚のバッテリーを備え、1日あたり480回の交換サービスが可能とされる。しかし、以下の二つの課題が指摘されている。

  • バッテリーの過度な使用:ユーザーはバッテリー残量が低い状態で交換を求めるため、急速充電が頻繁に行われ、バッテリー寿命が1200〜2000サイクル(容量が80%に低下)と短縮されるリスクがある。
  • 電力供給の負荷:1ステーションが1日で消費する電力量は約3.6万kWhで、平均時負荷は1.5MW、ピーク時は6MWに達する可能性がある。電網への負荷が大きく、インフラ整備が必要となる。

代替案として、充電ステーションと組み合わせたエネルギー貯蔵システムの活用が提案されている。例えば、75kWhのバッテリーを20%から80%まで充電するのに5分、1時間で12台の車をサービスできる。電網負荷は1.5MWで済むが、貯蔵装置を併設すればピーク時の電力需要を平準化でき、設備コストも低減できる。

政府は2027年末までに全国で10万台以上の大功率充電設備を整備する方針を示しており、換電と充電の両方が競合しつつ市場拡大を支える可能性がある。

まとめ

寧徳時代は、過去十年間で政策補助金と原材料価格の変動を巧みに利用し、バッテリー事業で世界的なシェアを確保してきた。一方で、動力電池とエネルギー貯蔵事業の売上は市場全体の伸びに対して伸び悩んでおり、利益率も補助金廃止後に低下した時期がある。換電ビジネスは新たな収益機会として期待されるが、バッテリー寿命への影響や電網負荷といった課題が残る。

今後は、リン酸鉄リチウム電池へのシフトやエネルギー貯蔵システムとのシナジー、そして充電インフラの拡充が寧徳時代の成長を左右する重要な要素となるだろう。

出典: https://www.huxiu.com/article/4789171.html?f=wangzhan

2025/10/13

テスラ、米国でModel Y・Model 3を低価格化 中国市場での課題とマスク氏の舵取り

米国での新価格帯モデル発表

2024年の国慶節期間に、テスラは米国市場でModel YとModel 3の標準版を新たに投入した。Model Yは3.999万米ドル(約400万円)から、Model 3は3.699万米ドル(約370万円)から販売開始し、各車種の出発価格をそれぞれ5,000米ドルと5,500米ドル引き下げた。

この価格引き下げは、テスラが長年抱えてきた「価格が高い」という課題に対する直接的な対策として位置付けられた。特に価格感度の高い層を狙う意図があるが、実際の製品内容は大幅に削減された。

Model Y標準版の仕様削減

新たに登場したModel Y標準版は、前後の貫通式ヘッドライトや車内アンビエントライト、ステアリングの電動調整、リアエンターテイメントスクリーン、全景天窓といった装備が省かれた。シート素材はレザーから布製に変更され、ミラーの電動折りたたみ機構も手動に戻された。

さらに自動運転支援システムであるAutopilotも標準装備から外れ、完全自動運転(FSD)を利用したい場合は別途8,000米ドルのオプションが必要になる。これらの削減にもかかわらず、標準版の販売価格は約4万米ドルに留まっている。

市場の反応と株価の変動

新車発表直後、テスラ株は単日で5%以上上昇したが、翌日には4.45%下落し、時価総額は約650億米ドル減少した。投資家は、価格は下げたものの製品の魅力が不足していると判断したとみられる。

米国内では、一部のユーザーが価格低減を受け入れる姿勢を示すものの、中国市場においては「丐中丐」や「鉄皮房」などの揶揄がSNS上で広がり、実質的な需要喚起には至っていない。

中国市場での競争環境

中国のEVメーカーは、価格帯別に専用ブランドやモデルを展開し、コスト構造を根本から見直す戦略を取っている。例えば、蔚来の「萤火虫」や小鹏の「MONA」は、低価格帯でも外観やインテリアに重点を置き、競争力を確保している。

対照的に、テスラは既存のModel Yプラットフォーム上で低価格版を作る方針を取ったため、車体サイズや内部空間の制約を抱えたまま価格を下げる結果となった。Model Y Lは全長が179 mm、全高が44 mm、ホイールベースが150 mm伸長されたが、もともと5座の2列SUV設計であるため、3列目の座席は頭上空間が狭く、長距離での快適性は限定的だ。

同価格帯の中国メーカー車と比較すると、長さ・幅・高さ・ホイールベースのすべてで劣り、インテリアの質感でも遅れが指摘されている。

製品イノベーションの停滞とマスク氏の多忙

テスラは過去10年以上、Roadster、Model S/X、Model 3/Yといった革新的モデルで業界の認識を変えてきたが、現在は新たな爆発的製品が見えていない。Model Y自体は6年前に登場した車種であり、以降大幅な刷新は行われていない。

この背景には、イーロン・マスクCEOがテスラ以外の事業に時間を割いていることが影響している。2022年以降、Twitter(現X)の買収、xAIの創設、SpaceXの火星計画、人型ロボット開発など、多岐にわたるプロジェクトに関与している。

マスク氏はかつて、Model SからModel Yまでの全ラインナップを主導したデザインチームと密に連携し、製品ビジョンを具体化してきたが、近年は本社移転や多忙によりその関与頻度が低下したと報じられている。その結果、Model Yのデザインや技術的な差別化は過去のモデルに比べて目立たなくなっている。

今後の課題と展望

テスラが中国市場で成長を続けるためには、単なる「減配」や「加長」だけでなく、全く新しいプラットフォームや技術を備えた次世代モデルの投入が求められる。中国の競合は、低価格帯でも独自のブランド戦略で市場シェアを拡大しており、テスラが同様の戦略を取らなければ、シェアの維持は難しい。

また、社内の意思決定プロセスを多様化し、マスク氏が過度に一言で舵取りを行う体制から脱却することも、イノベーションを再活性化させる鍵となるだろう。

結論として、米国での価格引き下げは短期的な売上向上を狙った施策に過ぎず、長期的な競争力確保には新製品開発と組織文化の変革が不可欠である。

出典: https://www.huxiu.com/article/4791171.html?f=wangzhan