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2025/11/05

Googleが宇宙AIデータセンター構想「Project Suncatcher」開始、SpaceXとNvidiaの動向も注目

Googleの宇宙AIインフラ構想「Project Suncatcher」

Googleは本日、地上のデータセンターが抱えるエネルギー逼迫を背景に、宇宙空間にAI計算基盤を構築する計画を正式に発表した。計画名は「Project Suncatcher(サンキャッチャー)」。太陽光を直接利用し、低軌道(LEO)に配置した衛星群で自社開発のTPU(Tensor Processing Unit)を稼働させ、地上の電力・水資源への依存を排除することを目指す。

AIが抱えるエネルギー・資源課題

国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、2030年までに世界のデータインフラが消費する電力量は日本全体の電力需要に匹敵するとされている。また、世界経済フォーラムのデータでは、1メガワット規模のデータセンターが1日で使用する水量は、先進国の約1,000人分の生活用水に相当する。

英 Nvidia の H100 GPUは最大消費電力が700ワットで、これは家庭用電子レンジと同等である。データセンターに数万枚規模で搭載すれば、電力供給と冷却のインフラが追いつかないという指摘が増えている。

宇宙での計算基盤構築を目指す理由

Googleは宇宙を選択した理由を三点にまとめている。

  • 太陽光パネルの効率が地上の約8倍になる。
  • 昼夜や雲の影響がなく、24時間365日安定した電力供給が可能。
  • 土地や水といった地上資源を消費しない。

これにより、エネルギーコストと環境負荷の両方を大幅に削減できると期待されている。

技術的課題とGoogleの解決策

1. 宇宙内の高速ネットワーク

AI訓練には膨大なデータを低遅延でやり取りできるネットワークが不可欠だ。地上では光ファイバーが主流だが、宇宙ではどう実現するかが課題となる。

Googleは衛星を「編隊飛行」させ、相互距離を100〜200メートルに保つことで、自由空間光通信(FSO)による1.6テラビット毎秒(Tbps)の双方向伝送を実証したと論文で報告している。シミュレーションでは81機の衛星が同時に稼働し、各衛星に太陽光パネル、放射冷却装置、高帯域光学通信モジュールを搭載する。

2. 放射線耐性

宇宙空間は高エネルギー粒子が飛び交う過酷な環境であり、半導体は放射線による損傷を受けやすい。Googleは自社のCloud TPU v6e(Trillium)を67メガ電子ボルト(MeV)のプロトンビームで照射し、2キロラッド(krad)Siまで耐えることを確認した。これは5年ミッションで想定される放射線量(750ラッド)を約3倍上回る数値で、低軌道での連続運用が可能と結論付けている。

2027年までにPlanet社と協力し、2機の原型衛星を打ち上げて実環境での耐久性を検証する計画だ。

3. 地上へのデータ回送

衛星間の高速通信は実証済みでも、計算結果を地上に戻す「地-空」リンクは未解決のままだ。Googleは「晨昏同步軌道」(昼夜同期軌道)を採用し、太陽光利用を最大化するが、地上の特定地点への遅延が増大する点を認めている。

現在、NASAが2023年に樹立した200ギガビット毎秒(Gbps)の地-空光通信記録は、宇宙AIデータセンターの規模を考えると依然として不足している。

コスト構造とSpaceXの役割

宇宙に機器を持ち込む最大の障壁は打ち上げコストだ。過去のデータによれば、1キログラムあたりの打ち上げ費用は$30,000から$1,800へと低減してきた。SpaceXは再利用ロケットの大量生産により、将来的に$60/kg、極端なケースでは$15/kgまで削減できると見込んでいる。

GoogleはSpaceXが$200/kgに到達すれば、単位電力あたりのコストが地上データセンター($570〜$3,000/kW·年)と同等になると計算している。現在の市場価格はこの理想価格の約10倍であり、コスト競争力の実現にはさらなる価格低下が不可欠だ。

他社の宇宙AI動向

Googleの発表直前、2024年11月2日にNvidiaのH100 GPUが初めて宇宙に搭載された。Starcloudというスタートアップが開発した衛星に搭載されたこのGPUは、従来の宇宙コンピュータに比べて計算性能が100倍に達するとされ、リアルタイムでSAR(合成開口レーダー)画像を解析し、必要最小限の情報だけを地上に送信するという用途を想定している。

StarcloudのCEOは、SpaceXのStarshipが実現する低コスト打ち上げに依存すると語っており、宇宙での計算インフラが本格化すれば、NvidiaのGPU支配と同様に、SpaceXが「軌道上の算力プラットフォーム」を支配する可能性が指摘されている。

展望と課題

Googleの「Project Suncatcher」は、エネルギー・資源問題への斬新な解決策として注目を集めているが、実装には衛星間通信、放射線耐性、地上回送、そして何より打ち上げコストという四つのハードルが残る。これらが克服されれば、AI計算の新たなフロンティアが宇宙に開かれることになるだろう。

AIの計算リソースが地上の限界に近づく中、宇宙という未踏領域への投資は、次世代のテクノロジー競争における重要な分岐点となり得る。

出典: https://www.ifanr.com/1643364