
京東が2025年11月11日(23:59)に開催した大型セール「11.11」では、取引額が過去最高を記録し、AI技術が単なる補助から本格的な生産性ツールへと変貌したことが明らかになった。ユーザー数は40%増、注文件数は約60%増と、規模拡大と同時にAI活用の効果が顕在化した。
京東の2025年11.11ショッピングフェス概況
京東は公式に、2025年11月11日23:59までの取引データを公表し、注文ユーザー数が前年同期比で40%増、総注文件数が約60%増加したと発表した。具体的な売上金額は未公表だが、各カテゴリで顕著な伸びが見られた。
特に「帯電品類」(携帯電話・デジタル機器)は京東の強みであり、スマートフォンの新製品売上は前年同期比で4倍以上に跳ね上がった。AI搭載タブレットは200%増、AI大型スマートフォンは150%増、AI眼鏡・AIスピーカー・AI家庭用ストレージはそれぞれ100%増と、AI関連製品が全体の成長を牽引した。
家電・家具の新商品売上は150%増、設置・組み立てを一体化したサービスの注文は90%超の伸びを示した。これらの数字は、AIが商品提案から物流、アフターサービスまでシームレスに結びつくことで、消費者体験が大幅に向上したことを示唆している。
AIが支えるサプライチェーンとデジタル人材
京東は、AIが「補助ツール」から「生産性ツール」へと役割を変えたと公式に説明した。中心となるのは「JoyAI」全スタックAIシステムで、同社のスーパーサプライチェーン全体に深く組み込まれている。
JoyAIとJoyAgentの全方位展開
内部運用では、30,000を超える「JoyAgent 3.0」ベースのデジタルエージェントが「デジタル社員」として稼働し、販売、物流、金融、産業といった多様な領域をカバーしている。これらのエージェントは、需要予測、在庫最適化、配送ルート自動生成など、従来は人手が必要だった業務をリアルタイムで処理し、全体の効率を大幅に向上させた。
JoyAI大規模言語モデルは、1,800以上のシナリオで活用され、618イベント(中国の大規模ショッピング祭)時の呼び出し回数と比べて4倍に増加した。これにより、注文ピーク時のシステム負荷を抑えつつ、迅速な意思決定が可能となった。
デジタル人「JoyStreamer」の効果
販売側では、デジタルヒューマン「JoyStreamer」が4万以上のブランドを支援し、実際の人間ライブ配信者のコストの1/10で運用できた。販売実績は、リアル配信者を上回る80%以上の転換率を達成し、11.11期間中にブランド売上を230億人民元(約3.6兆円)以上増加させた。
このコスト削減と高いパフォーマンスは、AIが単なるサポートを超えて、直接的な売上創出エンジンとして機能していることを示す好例である。
消費者向けサービスの変化
顧客対応面でもAIは大きく貢献した。京東のスマートカスタマーサービスは、24時間365日体制で稼働し、累計で420億件以上の問い合わせに対応した。そのうち80%以上が満足度調査で「満足」以上の評価を受けている。
AIチャットボットは、商品検索、配送状況確認、返品手続きなどを自然言語で処理し、ユーザーがアプリやウェブ上で瞬時に解決策を得られるようにした。これにより、コールセンターへの負荷が軽減され、人的リソースをより高度な業務へシフトできた。
今後の展望と課題
京東は、AIをコアに据えた「スーパーサプライチェーン」のさらなる高度化を目指すと同時に、データプライバシーやアルゴリズムの公平性といった課題にも取り組む姿勢を示している。特に、AIが生成する推奨や価格設定が消費者に与える影響については、透明性の確保が求められる。
中国全体でAI規制が強化される中、京東は国内外の法令遵守を前提に、技術開発とビジネス拡大を両立させる必要がある。今後もAIが物流・販売・カスタマーサービスの各段階でどのように統合され、競争優位性を維持できるかが注目される。
今回の11.11は、単なる売上記録に留まらず、AIが企業運営の根幹に組み込まれた実証の場となった。京東が示した「デジタル社員」や「デジタルヒューマン」の成功事例は、他の中国企業だけでなく、グローバルなeコマース市場にも波及効果をもたらす可能性が高い。

