2025/12/10

SpotifyでAI偽バンドが急浮上、King Gizzardが直面した問題(2024)

SpotifyでAI偽バンドが急浮上、King Gizzardが直面した問題(2024) のキービジュアル

はじめに

Spotifyの2024年年度統計が公開されると同時に、AIが生成した偽バンドが同プラットフォーム上で急速に注目を集めました。オーストラリアのロックバンドKing GizzardがSpotifyから楽曲を撤退させたにも関わらず、AIが作り出した『King Lizard Wizard』が検索結果の上位に表示され、ユーザーの不満が噴出しています。

本稿では、偽バンドの出現メカニズムとSpotifyのコンテンツ規制の課題、さらに中国におけるAI音楽生成の現状と産業への影響を整理し、音楽クリエイターが直面するリスクと今後の展望を検証します。

AI偽バンド『King Lizard Wizard』の実態

King Gizzardは2023年7月、Spotify上の全楽曲を自主的に削除し、唯一残したのは共同制作したリミックスのみでした。しかし、2024年10月頃、同プラットフォーム上で『King Lizard Wizard』という名義のバンドが登場し、曲名・歌詞・アルバムカバーまでKing Gizzardのオリジナルと完全に一致させてアップロードされました。

検索バーで「King Gizzard」と入力すると、公式アカウントは「使用停止中」と表示される一方、下部に偽バンドの楽曲が推薦され、特に『Rattlesnake』は一時期「Release Radar」のトップにまで上がっていました。さらに、偽バンドのアルバムカバーはAI生成と疑われるデジタルアートで、以下の画像のように見た目も本物に近いです。

AI生成と疑われる偽バンド『King Lizard Wizard』のアルバムカバー

メタデータ上では、King GizzardのボーカリストStu Mackenzieが作詞作曲者として記載されており、著作権侵害の疑いが強まっています。Spotifyは2024年9月に「ゴミコンテンツ、模倣、欺瞞的行為」への対策を発表しましたが、実際に偽バンドが公式プレイリストに掲載されたことは、同社のAIコンテンツ監視体制に大きな穴があることを示しています。

AI生成音楽が氾濫する背景

Spotifyだけでなく、YouTubeやTikTokでも同様のAI偽楽曲が拡散しています。過去1〜2年で、AI技術を用いた大量生成音楽がプラットフォーム上に溢れ、著名アーティストの盗作から、全く新規の無名楽曲まで多様化しています。

中国の音楽配信大手であるTencent Musicは、2023年に「啓明星AI作曲」プロジェクトを開始し、累計で2600万曲以上のAI楽曲をリリース、総再生回数は10億回を超えたと公式に発表しています。また、酷狗音楽は「星曜計画」の一環としてAI専用チャートを設置し、オリジナル楽曲とカバー曲の両方をAIが生成・配信しています。

特に注目されたのは、2024年5月に抖音(Douyin)で流行した『第57次取消发送』です。元は女性ボーカルの楽曲でしたが、同年11月にAIが男性ボーカル版を生成し、再び話題となりました。AI版は音声に微細な機械的ノイズが残るものの、リスナーからは「懐かしさ」を呼び起こすと好評でした。

音楽プラットフォームのビジネスモデルとAIコンテンツの相性

Spotifyは「無限再生」や「プレイリスト駆動」のアルゴリズムに依存し、ユーザーの滞在時間を最大化することを収益の根幹としています。この構造は、再生回数を稼ぐために大量のAI生成楽曲が投入されやすい土壌となります。CEOダニエル・エックは2023年に「AI音楽は文化的に良いこと、プラットフォームのエンゲージメントと収益を拡大する」と語っており、実際にAI楽曲が増えるほどアルゴリズムが推奨しやすくなる循環が生まれています。

具体例として、架空のバンド『The Velvet Sundown』は、Spotify上で100万人以上のリスナーを獲得しましたが、後に創作者が「ソーシャル実験」だったと告白し、楽曲・写真ともにAIで生成されたことが明らかになりました。同様に、バーチャルロックシンガー『Echo Harper』も公式プレイリスト『Just Rock!』に掲載され、月間リスナー数は数十万に達していました。

クリエイターの抵抗と代替プラットフォームへのシフト

AI偽楽曲への不満が高まる中、2023年以降、独立系ミュージシャンがSpotifyから撤退するケースが増加しています。米国のシンガーソングライターCaroline Roseは、最新アルバムを黒胶(レコード)とBandcampでのみ販売し、ストリーミングサービスへの配信を断念しました。Bandcampは「Pay-what-you-want」方式を採用し、アーティスト側の収益率は通常の82%から、特定の「Bandcamp Fridays」では100%に上ります。

日本でも同様の動きが見られ、アーティストが自らの楽曲を有料ダウンロードや限定フィジカル販売にシフトするケースが増えています。これにより、AI生成コンテンツが氾濫するプラットフォームからの脱却と、クリエイティブな価値の再評価が進んでいます。

中国におけるAI音楽の独自性と課題

中国国内では、AI生成音楽は急速に普及していますが、Spotifyのような大規模な国際プラットフォームほどの抵抗運動はまだ顕在化していません。『第57次取消发送』は抖音だけでなく、テレビ番組やライブパフォーマンスでも取り上げられ、AI楽曲が主流メディアにまで浸透しています。

しかし、著作権保護の観点からは、AIが生成した楽曲と既存の楽曲との境界が曖昧になることで、権利者側の訴訟リスクが高まっています。中国政府は2022年にAI生成物の著作権帰属に関するガイドラインを策定しましたが、実務上の適用は未だ不透明です。

まとめと今後の展望

Spotify上で顕在化したAI偽バンド『King Lizard Wizard』は、プラットフォームのAIコンテンツ監視体制の脆弱性と、アルゴリズムが再生回数を優先するビジネスモデルの相克を象徴しています。中国においてもAI音楽生成は急速に拡大しており、著作権侵害や市場の質的低下といった課題が顕在化しています。

音楽が「データ商品」として扱われる時代において、リスナーが作品に対して真摯に向き合う姿勢と、クリエイターが適切な報酬を得られる仕組みの構築が求められます。AI技術は創作の補助ツールとして有用である一方、偽装や大量生成による乱用を防ぐための法的・技術的対策が急務です。今後、プラットフォーム側がAI生成コンテンツのラベリングや削除プロセスを強化し、アーティストが代替プラットフォームへとシフトする動きが加速すれば、音楽産業はより健全なエコシステムへと転換できるでしょう。

出典: https://www.ifanr.com/1647948