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2025/11/05

広汽埃安、増程車 i60を11.98万元から予約販売開始 販売不振と新戦略を背景に

新車 i60 の予約販売が開始

中国の自動車メーカー・広汽埃安(グアンチー・エーアン)は、2024年10月31日深夜に新型乗用車「i60」の予約販売を開始したと発表した。価格は増程(レンジエクステンダー)版が12.68万元、純電動版が11.98万元で、増程版が純電動版より高額になる数少ないケースとなっている。

i60 は同社が正式に販売する初の増程モデルであり、以前に発表された「V」シリーズにも増程バージョンが存在したものの、実際の販売は行われていなかった。外観や車体サイズは V 系列とほぼ同一で、デザイン面での差別化は限定的である。

パワートレインと航続性能

増程版と純電動版は、広汽が自社開発した 1.5 リットルの増程エンジンを共通で搭載している。i60 の増程版は、エンジンが最大85 kW(約115 ps)までの持続発電が可能で、29.165 kWh のリン酸鉄リチウム電池と組み合わせ、純電走行で約210 km の航続距離を実現する。

広汽は「業界最高水準の油電転換効率」を謳い、減速時の燃費は 100 km 当たり 5.5 L、総合航続距離は 1,240 km としている。一方、純電動版は 150 kW と 165 kW の二種類のモーターを選択でき、バッテリー容量は 47.829 kWh、62.268 kWh、75.26 kWh の三段階が用意され、航続距離はそれぞれ約400 km、530 km、650 km になる。

安全技術とインテリジェントドライビング

埃安は「弾匣電池 2.0」プラットフォームを採用し、材料・構造・アルゴリズム・製造の四層にわたる安全システムを構築した。電池パックにはトップクラスの断熱ゲルが組み込まれ、熱失控時でも明火が発生しない設計となっている。また、720° の衝撃吸収構造により、衝突後の電池安全性が確保され、極端な変形(「ねじり」)が加わっても使用可能と主張している。

運転支援システムは広汽独自の GSD(グランデ・スマート・ドライブ)を搭載し、ミリ波レーダー 3 基とカメラ 7 台で構成されたハードウェアを備える。高速道路でのレーンキーピングや自動駐車、代行駐車といった機能が提供され、国内の同クラス車と比較しても先進的なレベルに位置付けられる。

デザインと室内装備

外観は V 系列と同様のフロントマスクを踏襲しつつ、エアインテークのグリルが拡大され、ヘッドライトは分割型からフルスルーの横長デザインへと変更された。全長 4,685 mm、全幅 1,854 mm、全高 1,660 mm、ホイールベース 2,775 mm と、V 系列よりやや長く高いボディサイズで、サイドはフローティングルーフと幅広のアーチが採用され、力強さと SUV 的な硬派さを演出している。

インテリアはミニマルな家族的デザインを継承し、矩形のフル液晶メーターと大型フローティングタッチスクリーンが組み合わされたコックピットが特徴だ。シートカラーはミルクホワイト、ライトブラウン、タヒチグレーの三色が用意され、空調は全車に貫通型の吹き出し口が配置されている。

販売戦略と中国市場の背景

i60 の予約販売は、埃安が抱える販売不振への対策として位置付けられる。2023年9月の同社全体販売台数は 2.4 万台で、うちベストセラーの「V 霸王龍(バオラン)」純電動版は 6,072 台を販売した。これは、2022年に約48 万台に達した全盛期と比べて大幅な減少である。

埃安は B2B 市場、特にタクシーやネット配車(ライドシェア)向けに強く依存してきた。中国乗用車協会(乗聯会)のデータによれば、2023年に新車として販売されたタクシー・配車車は総計 85 万台で、うち約 22 万台が埃安製で、全体の 45% を占め、ライドシェア市場全体の新規車両の約 25% に相当する。

しかし、ライドシェア市場は急速に飽和し、需要が頭打ちになる中で、同社の売上は伸び悩んでいる。対策として、埃安は高級ブランド「昊鉑(ハオボ)」を立ち上げ、GT、SSR、HT などの上位モデルを投入したが、販売実績は月間数百台にとどまり、主力の 15 万元前後のモデルへの投資が分散された結果、車載インフォテインメントやソフトウェアの品質が競合他社に遅れを取る事態となった。

このような背景の中で、i60 の増程版は「価格で差別化」よりも「航続距離と燃費効率で差別化」を狙い、特に長距離走行が求められる商用車オーナーや地方都市の個人ユーザーに訴求する戦略と見られる。また、同時期に JD.com と提携し「交換式バッテリー」モデルを展開することで、消費者の関心を喚起し、ブランド認知度の向上を図っている。

今後の見通しと課題

埃安は 2024 年に入ってから製品ラインナップの刷新と内部体制の再編を進めており、研究開発から販売チャネル、マーケティングまで幅広い領域で人事異動が行われている。特に、価格帯 10 万元前後の市場では、製品力が最重要要素とされ、上位ブランドのマツダや MG4 などが価格と性能のバランスで急成長を遂げている。

i60 が市場でどれだけのシェアを獲得できるかは、増程システムの実用性と燃費性能が実際の走行環境でどれだけ評価されるかにかかっている。もし「油電転換効率業界トップ」の主張が実証され、充電インフラが未整備の地域でも安心して長距離走行が可能になるなら、埃安は B2B 依存から脱却し、個人ユーザー層への拡大を実現できる可能性がある。

しかし、競合他社が電池技術や自動運転支援機能で急速に追い上げてくる中、製品開発サイクルの短縮と品質向上が不可欠である。今後数カ月で i60 の実車評価が集まり、販売実績が明らかになるにつれて、埃安の再起の鍵が見えてくるだろう。

中国の自動車市場は依然として世界最大規模であり、政策面でも新エネルギー車(NEV)への補助金や排出規制が続く。一方で、メーカーは価格競争と技術革新の二律背反に直面している。埃安が i60 を通じてどのように差別化を図り、持続可能な成長路線に転換できるかが注目される。

出典: https://www.ifanr.com/1643300