
概要と最新事例
テスラが開発する人形ロボット Optimus が、2024年に米国マイアミで開催された「Autonomy Visualized」イベントで遠隔操作の疑いが浮上した。ロボットが VR ヘッドセットを外すような動作を見せた後、バランスを崩して倒れた映像がSNSで拡散された。
この映像は、ロボットが自律的に動作したのか、背後に人間がリアルタイムで操作していたのかを巡る議論を呼び、同時にテスラのロボット戦略全体への関心を再燃させた。
遠隔操作の疑惑が再燃した経緯
マイアミ会場で Optimus は水瓶を配るデモを行っていたが、突然両手を上げてヘッドセットを外すようなジェスチャーを見せ、続いて後方へ倒れた。観客はこの動きを「VR ヘッドセットを外すときの手の軌跡」と指摘し、遠隔操作の可能性を指摘した。
同様の指摘は過去にもあった。2024年1月にマスクが X(旧Twitter)に投稿した「シャツをたたむ」動画では、画面右下に別の機械アームの影が映り、マスク自身が「自律的に完了したわけではない」と認めている。
さらに、2023年10月に開催された「We Robot」イベントでも、Optimus が飲み物を提供したり投げ球ゲームを行ったが、後にエンジニアが遠隔で補助していたことが明らかになった。現場でロボットが「今日は人間が支援している」と電子音で告白した映像も残っている。
テスラが描くロボットのビジョンと数値目標
イーロン・マスクは Optimus を「汎用ロボット」と位置付け、2024年の発表で「教師や子守、犬の散歩、芝刈り、買い物、友人」まで幅広い役割を担えると語った。また、同年の株主総会で「AI とロボットが成熟すれば、世界経済を 10 倍、さらには 100 倍に拡大できる」と楽観的な見通しを示した。
マスクは Optimus の長期的な収益機会として「10 万億ドル規模」とし、将来的な需要は「100 億台から 200 億台」になる可能性があると予測している。これが実現すれば、テスラの時価総額の 80%以上を占め、最終的に「25 万億ドル」規模に達すると見込んでいる。
技術的進化と現在の実装レベル
Optimus は 2021 年に概念モデルとして登場し、2022 年に歩行可能なプロトタイプ、2023 年に Gen2 が卵を焼くデモを披露した。2024 年現在、Gen3 は各手に 22 の自由度(DOF)を持ち、2.3 kWh バッテリー、8 台のカメラ、テスラ自社開発の FSD チップを搭載したエンドツーエンドの神経ネットワークで制御されている。
このハードウェアにより、ロボットは単独で歩行・バランス保持・物体認識・片足立ち・物品の掴み取りが可能となり、滑りやすい床面でも姿勢を自動修正して転倒を回避できる。先週公開された走行動画は、スムーズな動きを示す好例である。
遠隔操作の技術的ハードル
遠隔操作自体は産業ロボット分野で一定の需要がある。危険環境や単調作業において、人間が VR デバイスでロボットを操作すれば安全性が向上する。だが、操作員は高精度の力覚フィードバック、低遅延通信、複雑な姿勢マッピングを実現しなければならず、技術的難易度は高い。
例えば、指先の微細な動きを正確に再現しつつ、ロボット本体のバランスや環境認識をリアルタイムで調整する必要がある。これらは「完全自律」への道のりを阻む課題であり、業界全体が現在も研究開発を続けている。
中国市場との比較と今後の展望
中国でも人形ロボット開発が活発化しており、国家レベルでの支援制度や大手テック企業の投資が進んでいる。例えば、AI チップやマルチモーダル AI 技術を活用したロボットは、産業 AI(実装)分野で急速に実用化が進んでいる。
テスラの Optimus が完全自律に到達すれば、同様の技術を持つ中国企業との競争は激化するだろう。中国市場はロボット需要が急増しており、特に遠隔操作や安全性が求められる産業現場での導入が期待されている。
結論:期待と課題のはざまで
Optimus はハードウェアとソフトウェアの両面で目覚ましい進化を遂げているが、遠隔操作が露呈した今回の事例は、完全自律への道が依然として遠いことを示す警鐘でもある。マスクの大胆な数値目標は業界全体に刺激を与える一方で、実際に大規模生産・運用が可能になるまでには、技術的課題とコスト面のハードルを克服する必要がある。
今後、テスラが遠隔操作から真の自律へとシフトできるか、そして中国のロボット企業がどのように競争力を高めていくかが、世界の産業ロボット市場の行方を左右するだろう。