長安汽車グループの誕生と現在の規模
2025年7月29日、北京で中国長安汽車集団有限公司(以下、長安汽車)が正式に設立された。設立からわずか79日で、同社は中国の新興自動車央企として注目を集めている。長安汽車は143社の子会社を傘下に持ち、従業員は14.5万人、総資産は3,087億元に上る。
同社の主力ブランドは、アヴィタ(Avita)、深藍汽車(Deep Blue)、長安啓源(Changan Qiyuan)の3つのグローバル数智新エネルギーブランドである。ミッションは「自主コア技術を備えた世界競争力のある一流自動車グループを創出し、世界一流の自動車ブランドを築く」ことと定めている。
スマートモビリティのビジョンと自動運転の普及予測
長安汽車の党委員長兼会長である朱華栄は、2025年10月に開催された世界スマート・コネクテッド・カー大会で、同社の戦略を発表した。彼は、スマート・コネクテッド・カー産業は急速に規模を拡大しており、数智新車が未来の主流になると指摘した。特に、2025年1月から7月までの中国乗用車におけるL2(レベル2)支援運転の浸透率は63%に達している。
朱会長は、2030年までにL2支援運転が標準装備になると予測し、L3以上(レベル3以上)の自動運転搭載率は10%を超えると見込んでいる。また、L4レベルの自動運転は段階的に普及が進むと述べた。これにより、車は単なる移動手段から「自律進化するスマートロボット」へと変貌し、陸・海・空の立体的な移動エコシステムへと拡張すると期待されている。
新興産業との融合と市場規模の見通し
自動車産業は、具身知能(エンボディド・インテリジェンス)や低空経済といった新興分野と深く結びつきつつある。朱会長は、これらの市場規模は2030年までに大幅に拡大すると予測し、具身知能は230億米ドル超、低空経済は3,220億米ドル超になると示した。これらの領域は、車両が空中や海上でも機能する「上天入海、縦横天下」の大エコシステムを形成し、産業全体に新たな増分需要をもたらす。
グローバル標準化の重要性と直面する課題
スマート・コネクテッド・カーの国際標準化は、企業とユーザー双方に利益をもたらすと朱会長は強調した。基礎プロトコルや機能安全などのコア領域での標準化は、車メーカーが重複した開発や認証コストを削減し、サプライチェーン全体のコスト低減につながる。また、消費者は国境を越えてシームレスに車両を利用できるようになる。
しかし、標準化の過程では構造的な矛盾や課題が残っている。第一に、現行技術路線では長尾シナリオのデータ収集が難しく、突発的・複雑・低確率の危険シーンへの体系的な最適化が遅れる点が安全性に影響を与える。第二に、AIや大規模モデルといった技術は数週間単位で進化するが、標準策定は長期間を要し、調整リソースや検証要件が高くなる。第三に、各国の標準が未統一であり、重複や矛盾が生じている。たとえば、eCall(緊急通報)に関する規格差により、同一車種でもソフトウェア・ハードウェアの適合と認証に余分なコストが発生する。
今後の展望と長安汽車の位置付け
長安汽車は、2025年上半期の純利益が22.91億元で、前年同期比19.09%減少したと報告しているが、資本規模は200億元と大きく、今後の投資余力は十分と見られる。新たに発表された第4世代CS55PLUSは、500バール超高圧直噴エンジンを搭載し、9月25日に国内で初公開される予定だ。
朱会長は、スマート・コネクテッド・カーの標準化と新興産業との融合が、長安汽車を「世界一流の自動車グループ」へと導く鍵になると語った。中国国内だけでなく、グローバル市場でも競争力を高めるために、技術開発と標準策定の両輪を加速させる方針だ。
中国の自動車産業は、政府の政策支援と市場の需要拡大により、急速に変革を遂げている。長安汽車が掲げる2030年ビジョンは、国内外の自動車メーカーにとって重要な指標となり、次世代モビリティの方向性を示すものとして注目されるだろう。