燃油車販売の回復状況
2025年は「電気時代」と呼ばれる一方で、燃油車の販売が再び伸びていることが中国の自動車市場で顕著に表れた。2025年8月の全国燃油車販売台数は90.2万台で、前年同月比13.5%増となった。さらに、今年1月から8月までの累計販売台数は874.7万台に達し、昨年通年の販売台数にほぼ匹敵する数字となっている。燃油車の販売増加は、2024年11月にすでに上昇傾向が見られたことが背景にあり、電気自動車(EV)へのシフトが一時的に鈍化したことを示唆している。
地域別の車種嗜好
販売回復は全国的に均一ではなく、地域ごとに好まれる車種が大きく異なる。北部の華北地域ではフォルクスワーゲンの「朗逸」が圧倒的に支持され、特に山東省では黒色の燃油アウディ(A6L)が人気だ。東北部はフォルクスワーゲンへの忠誠心が根強く、北西部では長安の「CS75」が売れ筋となっている。一方、華南地域ではトヨタの「カムリ」や「アジアノドラ」が主流で、地域ごとの生活様式や道路環境が車種選択に影響を与えている。
充電インフラと消費者心理
新エネルギー車(NEV)の最大の障壁は充電インフラである。都市部の住宅では、充電スタンドの設置費用が大きく変動し、最低でも1千元から最高で10万元に達するケースがある。上海の静安区では充電スタンド設置に12万元、北京の望京エリアでは15万元が必要とされ、車両購入価格を上回ることも珍しくない。
このような高額な設置コストに加えて、実際に利用できる充電スポットの不足が顕在化している。2025年の国慶節(ゴールデンウィーク)期間中、全国高速道路におけるNEVの充電量は前年同期比で50%以上増加したが、同時に待ち時間や故障率も過去最高を記録した。高速道路のサービスエリアでは、充電スタンドが「空き3/4」と表示されても、現地に到着すると故障や占有が多く、実質的に利用できないケースが頻発した。
実際の購入行動と経済的要因
充電インフラの不安は、消費者の購入意思決定に直接影響を与えている。例えば、上海在住の46歳男性・老赵(ラオ・ジャオ)は、15万元の予算でNEVを検討したが、充電スタンド設置費用が8万元に上る見込みだったため、最終的に燃油車のBMW 3シリーズを選択した。彼は週末に結婚式の送迎車として活用し、1日あたり500元の収入を得ることで、車両コストの回収を図っている。
同様に、ウイグル自治区のトラック運転手・买合木提(マイ・ヘムティ)は、10年以上使用している燃油車(プラド)を愛用し、電気トラックに比べて「燃料補給が数分で済む」点を重視している。彼は長距離輸送で「3日で完了できる仕事が電気車では5日かかる」ことを指摘し、時間=収入という観点から燃油車の優位性を語る。
燃油車と電気車の価値観の対比
調査によれば、55歳以上の車主の約90%が燃油車を選び続けている。彼らはタッチパネルの誤操作や音声アシスタントの騒音、隠しドアハンドルの不便さを不満点として挙げ、機械的なノブやハンドルが「安全感」を提供すると考えている。さらに、燃油車の中古車残価は電気車に比べて15%〜20%高く、電気車は登録直後に価値が急落する傾向がある。
このように、技術が高度化しシステムが複雑化するほど、日常の「手間」が増えると感じるユーザーが増えている。燃油車は「キーを回す、アクセルを踏む、出発する」というシンプルさが依然として支持を集めている。
まとめと今後の展望
中国の自動車市場は、電気化への政策的後押しが続く一方で、実際の利用環境や消費者心理が燃油車の復活を後押ししている。充電インフラの整備コストや待ち時間の長期化は、特に都市部の個人ユーザーにとって大きな障壁となっている。地域ごとの道路条件や気候差も、燃油車が依然として有利とされる要因を生んでいる。
今後、政府が公共充電網の拡充と住宅用充電設備の補助金制度を強化すれば、NEVの販売伸びは再び加速する可能性がある。しかし、短期的には「加油3分、充電1時間」という時間コストの差が、消費者の選択に影響を与え続けると見られる。
結論として、燃油車の回帰は単なる一時的な流行ではなく、インフラ整備と消費者のリスク回避行動が交錯した結果である。自動車メーカーは、充電インフラの課題解決とともに、ユーザーが求める「シンプルさ」と「信頼性」を提供できる製品開発が求められるだろう。