AIとの対話が日常になった今、私たちのコミュニケーションは大きな転換点を迎えています。特に若い世代の間では、人間よりもAIチャットボットに心の内を明かすことに心地よさを感じる人が増えていると言います。この現象について、人類学者の項飆(コウ・ヒョウ)氏は、新著『こんにちは、見知らぬ人』の対談の中で、これは単なる技術の進化ではなく、現代社会が抱える「社会の陌生化(낯설어化)」がAIによって加速していることの表れだと指摘しています。AIがもたらす利便性の裏で、私たちは何を失い、そして何を求め始めているのでしょうか。
## AIは完璧な「鏡」― 他者のいない自己対話の罠
AIとのコミュニケーションに多くの人が惹きつけられるのは、それが究極的に快適だからです。AIはユーザーの感情やニーズを完璧に理解し、決して否定せず、常に最適な応答を返してくれます。しかし項飆氏によれば、これは真の意味での「対話」ではありません。AIには独自の生命経験や視点が存在しないため、私たちの感情に寄り添うことはできても、予期せぬ発見や驚き、あるいは意見の衝突といった、人間関係ならではの豊かさを提供することはできません。それはまるで、自分の姿だけを映し出す高度なエコーチェンバー(反響室)であり、「自分の影を見つめて憐れむ」という自己完結した関係に過ぎないのです。この「完璧な恋人」との対話を続けるうち、私たちは現実の他者が持つ複雑さや不完全さに向き合う能力を失い、結果として現実世界から「他者」そのものが消えていってしまう危険性を孕んでいます。
## AI時代にこそ求められる「人間味」という価値
一方で、完璧なものが溢れる現代だからこそ、人々は逆説的に「人間味」を強く求めるようになっています。SNSで完璧に加工された写真や、AIが生成した非の打ち所のない文章に囲まれる中で、私たちは時折見せる他人の欠点や不完全さ、ありのままの姿にこそ、温かさや魅力を感じます。項飆氏が指摘するように、この「人間味」こそが、真の交流を生む鍵となります。完璧なテキストの交換では生まれない、少しの不器用さや弱さの開示が、相手との間に共感と信頼を育み、関係を深めていくのです。AIには決して模倣できない、その人固有の経験から生まれるユニークな視点や個性こそが、これからの時代に最も重要な価値を持つようになります。それは、画一的な正解を求めるのではなく、自分自身の不完全さを受け入れ、他者と関わる中で自己を豊かにしていくという、人間本来の営みを取り戻す試みと言えるでしょう。