2025/10/16

寧徳時代(CATL)の業績と市場展望:バッテリー事業の現状と課題

業績概況

2025年9月時点で、寧徳時代(証券コード:300750)は株価が前年同期比31.3%上昇し、時価総額は約1.83兆人民元に達した。これは同じく中国を代表する企業である貴州茅台(時価総額1.81兆人民元)を僅かに上回る数値で、動的PERは30倍となっている。

しかし、同社の主力事業である動力電池とエネルギー貯蔵電池は、いずれも市場全体の成長ペースに対して伸びが劣っている。高い時価総額が期待感に支えられている一方で、実際の業績は慎重に見極める必要がある。

動力電池事業の伸び悩み

寧徳時代の売上は過去数年で大きく変動した。2020年は売上が500億人民元を突破したが、成長率は10%未満に留まった。2021年は売上が1,303.6億人民元へと159%増、2022年は3,285.9億人民元(前年比152%)に達した。2023年は4,000億人民元を超えたものの成長率は22%に減速し、2024年は3,620億人民元へと9.7%減少した。2025年上半期(1–6月)では1,789億人民元の売上で、前年同期比7.3%増にとどまっている。

2021年以降の高成長は、主に三元リチウム電池へのシフトに支えられた。補助金制度がエネルギー密度を硬い指標としていたため、当時は三元電池が有利であり、寧徳時代はこの市場で大きなシェアを獲得した。しかし、補助金が段階的に廃止され、コスト面で優位性のあるリン酸鉄リチウム電池が再び市場シェアを拡大し、三元電池のシェアは20%以下に低下した。

2024年の中国国内新エネルギー乗用車販売台数は1,105万台で前年比40.2%増、商用車は53万台で前年比17.9%増と急成長したが、寧徳時代の動力電池売上は11.3%減少した。2025年上半期も同様に、国内新エネルギー車販売が587.8万台(前年比35.4%増)である一方、同社の動力電池売上は7.3%増にとどまっている。

エネルギー貯蔵事業の売上減少

寧徳時代が資本市場で高く評価される要因の一つは、エネルギー貯蔵事業への期待である。しかし、実際の売上は逆風にさらされている。2023年の貯蔵事業売上は600億人民元で前年比33.2%増だったが、2024年は573億人民元に減少し、前年比‑4.4%となった。2025年上半期は284億人民元で、前年比‑1.5%の微減にとどまっている。

同期間における世界の貯蔵バッテリー出荷量は、2023年が185GWh(前年比53%増)から2024年は301GWh(前年比62.7%増)へと拡大した。一方で中国国内の新規貯蔵装置容量は前年比27.5%増、世界全体のバッテリー貯蔵システム装置容量は前年比54%増と需要は急速に伸びている。需要増に対し、寧徳時代の貯蔵事業売上が減少している背景には、価格低下と市場の商業化度合いが低いことが影響していると考えられる。

利益率の変遷と要因

寧徳時代の利益率は、政策補助金と原材料価格の変動に大きく左右されてきた。2016年の動力電池平均販売価格は2,060元/kWh、コストは1,130元/kWhで、毛利率は45%に達した。補助金が段階的に減少した2022年には、販売価格が970元/kWh、コストが810元/kWhに落ち込み、毛利率は17.2%に低下した。

2023年以降、炭酸リチウム価格が急落し、2025年には1トン当たり6万元(ピーク時から90%下落)となった。この原材料コスト低下に伴い、同社のバッテリーシステムの毛利率は2023年に19.1%、2024年に24.5%、2025年上半期は23%に回復した。50kWhのバッテリーパックでの毛利益は、2022年が約8,350元、2025年上半期は約7,500元となっている。

このように、寧徳時代は政策補助金と原材料価格という二つの外部要因をうまく利用し、過去10年間で平均毛利率20%超を維持しつつ、出荷量の増加に伴う利益額の拡大に成功している。

換電ビジネスへの取り組みと課題

寧徳時代は「換電」サービスを新たな収益源として位置付け、2022年1月に「チョコレート換電」プラットフォームを発表した。長安、広汽、北汽、五菱、一汽といった大手自動車メーカーと戦略提携を結び、2025年に実装を予定していたが、実際に進展したのは蔚来(NIO)との提携のみで、同社は2025年3月に寧徳時代から25億人民元の出資を受けた。

換電ステーションは、1ステーションあたり23枚のバッテリーを備え、1日あたり480回の交換サービスが可能とされる。しかし、以下の二つの課題が指摘されている。

  • バッテリーの過度な使用:ユーザーはバッテリー残量が低い状態で交換を求めるため、急速充電が頻繁に行われ、バッテリー寿命が1200〜2000サイクル(容量が80%に低下)と短縮されるリスクがある。
  • 電力供給の負荷:1ステーションが1日で消費する電力量は約3.6万kWhで、平均時負荷は1.5MW、ピーク時は6MWに達する可能性がある。電網への負荷が大きく、インフラ整備が必要となる。

代替案として、充電ステーションと組み合わせたエネルギー貯蔵システムの活用が提案されている。例えば、75kWhのバッテリーを20%から80%まで充電するのに5分、1時間で12台の車をサービスできる。電網負荷は1.5MWで済むが、貯蔵装置を併設すればピーク時の電力需要を平準化でき、設備コストも低減できる。

政府は2027年末までに全国で10万台以上の大功率充電設備を整備する方針を示しており、換電と充電の両方が競合しつつ市場拡大を支える可能性がある。

まとめ

寧徳時代は、過去十年間で政策補助金と原材料価格の変動を巧みに利用し、バッテリー事業で世界的なシェアを確保してきた。一方で、動力電池とエネルギー貯蔵事業の売上は市場全体の伸びに対して伸び悩んでおり、利益率も補助金廃止後に低下した時期がある。換電ビジネスは新たな収益機会として期待されるが、バッテリー寿命への影響や電網負荷といった課題が残る。

今後は、リン酸鉄リチウム電池へのシフトやエネルギー貯蔵システムとのシナジー、そして充電インフラの拡充が寧徳時代の成長を左右する重要な要素となるだろう。

出典: https://www.huxiu.com/article/4789171.html?f=wangzhan