中国のロボット掃除機市場と小米の戦略
中国のスマート家電市場は、近年急速に拡大しており、特にロボット掃除機は都市部の共働き世帯を中心に需要が高まっている。2023年の国内出荷台数は約2,500万台に達し、前年比で約15%増加したと業界調査会社が報告している。こうした背景の中で、スマートフォンで知られる小米(Xiaomi)は、低価格帯からハイエンドまで幅広いラインナップでシェアを拡大してきた。
今回発表された「小米米家掃拖ロボット5」は、同社が掲げる「AIとIoTで生活をシンプルに」というビジョンを体現する製品として、2025年10月10日付のIT之家の報道に基づき予約受付が開始された。価格は水箱搭載モデルが3,199元(約5,300円)から、薄型上下水モデルが3,699元(約6,100円)で、いずれも中国本土のオンラインプラットフォーム京東(JD.com)で販売される。
デザインとハードウェアの特徴
本機の最大の特徴は、厚さがわずか7.9センチメートルという超薄ボディである。従来のロボット掃除機は本体上部に「小帽子」と呼ばれるカバーがあり、床面からのクリアランスが制限されがちだったが、今回のモデルはそのカバーを撤去し、センサーとカメラを正面に配置したことで、段差や家具の下への侵入性が向上した。
障害物回避は、下沈型高精度多次元感知システムと自社開発のナビゲーションアルゴリズム、さらにAIによる画像認識を組み合わせて実現。約130種類の一般的な障害物(靴下、スリッパ、体重計など)をリアルタイムで識別し、最大40ミリメートルの段差を乗り越えることができる。
吸引力は23000パスカル(Pa)という「鯨吞(くじらのむ)吸引力」を謳っており、細かなホコリから大きなゴミ、毛髪まで幅広い汚れを高速で吸い取る。主刷は「米家イノベーション」ダブルブレード構造で、毛髪の絡まりを抑制し、掃除効率を高めている。
モップ機能は、バイオミメティクス(生体模倣)圧力恒湿システムを採用し、人が手で拭くような圧力と湿度を再現。独立した水タンクは3段階の水量調整が可能で、床材や汚れの程度に応じて最適な拭き取りができる。
ソフトウェアとエコシステム連携
本機は小米のスマートホームプラットフォーム「米家(Mi Home)エコシステム」と完全に統合されている。米家アプリからは予約清掃、禁止エリア設定、遠隔操作が可能で、外出先からでもロボットを起動できる。また、小米の他製品(スマートロック、空気清浄機、加湿器など)と連携させることで、例えばドアがロックされた状態で自動的に掃除を開始するといったシナリオが構築できる。
さらに、AI三眼カメラを搭載した上位モデル「掃拖ロボット5 Pro」も同時期に発表されており、価格は3,999元(約6,600円)から、国の補助金適用後は3,399.15元(約5,600円)になる。今回の「5」シリーズは、価格帯を抑えつつもAI機能を標準装備した点が特徴で、コストパフォーマンスを重視する中国のミドルクラス層に訴求している。
中国国内での販売体制と今後の展望
予約は京東(JD.com)で受け付けており、販売開始後は同社の公式オンラインストアや主要家電量販店でも展開される見込みだ。中国国内では、政府の「スマートシティ」推進政策や住宅の小型化・高層化が進む中で、ロボット掃除機の需要は今後も伸び続けると予測されている。
小米は、AIチップ「澎湃(Surge)」を搭載したデバイス群を通じて、ハードウェアとソフトウェアのシームレスな統合を図っている。本機に搭載されたAI認識技術は、同社が自社開発した画像処理エンジンをベースにしており、将来的には更なる障害物認識精度向上や、部屋ごとの清掃パターン最適化が期待される。
価格帯と機能のバランスが取れた「小米米家掃拖ロボット5」は、競合他社のハイエンドモデルと比べても遜色のない性能を持ちつつ、手頃な価格設定で市場シェア拡大を狙う戦略的製品と言えるだろう。中国国内だけでなく、近隣のアジア諸国や欧米市場への展開も視野に入れた同社の動きは、今後のスマートホーム業界全体に影響を与える可能性がある。
まとめ
・厚さ7.9cm、吸引力23000Paというハイエンドスペックを低価格で提供
・AI画像認識で130種以上の障害物を回避、段差40mmまで乗り越え可能
・米家エコシステムと連携し、遠隔操作や他デバイスとの自動連携が可能
・価格は水箱版3,199元、薄型上下水版3,699元で、京東で予約受付中
中国のロボット掃除機市場は成熟期に入りつつあり、価格競争と技術革新が同時に進行している。小米の新製品は、こうした市場環境の中で「コストパフォーマンス」と「AI機能」の両立を実現し、消費者の選択肢を広げる重要な一歩となるだろう。

