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2025/10/29

腾勢 N8L、30万円台で全系易三方搭載 月販1万台目標へ

発売と価格

2024年10月28日夜、比亜迪(BYD)傘下の高級ブランド「腾勢(テンシ)」は新型大型SUV「N8L」を正式に販売開始した。尊榮型は29.98万元、旗艦型は32.98万元で、いずれも30万円台に相当する価格帯となっている。

市場背景と販売目標

腾勢は現在、月間販売台数が約1.2万台で、ほぼD9というMPV1モデルに依存している。一方、同グループの方程豹(ファンチャンパオ)は2023年9月に月販売2.4万台を突破し、ブランド全体のバランスが崩れつつある。N8Lは「月販1万台以上」を公式目標に掲げ、2〜3万台規模の新たな成長段階への足掛かりと位置付けられている。

技術基盤:易三方プラットフォームの全系標準装備

本車は旗舰モデルN9で培った「易三方」ハイブリッドプラットフォームをベースに、全車種に標準装備している。2.0リッターターボエンジンは熱効率44.13%と高効率を実現し、EHS電混システムと前後に配置された3基の電動モーター(前1基、後2基)で構成される。3基モーターにより0-100km/h加速は3.9秒、最高速度は220km/hに達する。

特筆すべきは後輪の±10°ステアリングと「円規掉頭」や「蟹行モード」などの高度な車体制御で、全長5.2メートル、ホイールベース3075mmという大型SUVながら、最小旋回半径は4.58メートルとコンパクトカー並みの取り回しを実現している。

快適性と独自機能:iCVCスマート防酔システム

家族利用を想定し、乗員の酔いを軽減する「iCVC」システムを初搭載。1000人以上を対象に3年にわたる調査・テストを経て開発されたこの機能は、クラウドディスク‑Aの予測視界とデュアルチャンバー空気サスペンション、易三方のトルクベクトル制御を組み合わせ、加減速時の車体の前後揺れやコーナリング時の横揺れを抑制し、車内環境を水平に保つことで酔いを緩和する。

航続・充電性能

プラグインハイブリッド専用のパワー型ブレードバッテリーを搭載し、CLTCモードでの純電走行距離は230km、総合航続距離は1300kmと公称されている。公表されたNEDCモードの燃費は6.1L/100kmで、急速充電は30%から80%までわずか19分で完了する。

サスペンションと安全装備

全車にクラウドディスク‑Aスマートエアサスペンションを標準装備。デュアルチャンバー空気サスペンションとCDC連続可変ダンパーにより、走行状況に応じて剛性と減衰をリアルタイムで調整し、コーナリング時のロールを抑える。また、車高は最大50mmの調整が可能で、路面予測機能も備える。

安全面では、2000MPa熱成形鋼を使用した車体構造、CTBバッテリーボディ一体化、全アルミ前後衝突ビームに加え、9個のエアバッグ(前席遠隔エアバッグ、3列全体をカバーするサイドカーテンエアバッグなど)を装備。易三方とクラウドディスク‑Aの連携により、緊急回避時の車体安定性が高められている。

外観・インテリアとデジタル装備

デザインは家族向け大型SUVらしく、分体式ヘッドライトとダブルウィング式デイライトを採用。21インチホイール、隠しドアハンドル、電磁ドア、ジェスチャー開閉、AR投影テールゲートなどが標準装備され、カラーは6種(ツートーン含む)を用意。インテリアは「雲錦米」「金山棕」「鉑檀灰」の3色展開。

車内は6画面構成のスマートキャビンを採用。50インチAR-HUD、13.2インチ計器パネル、17.3インチセンターコンソール、13.2インチ副操縦席拡張画面、17.3インチリアエンタメスクリーン、そしてストリーミングミラーが配置される。音響は20スピーカーのデイヴァーレ(DEVA)システムでDolby Atmosに対応し、AI大規模モデル(DeepSeek)を搭載した車載OSが音声操作を支援する。

座席は6人乗りで、前席はアクティブサイドウィング調整とゼロGシート、2列右側は同様の機能とデュアルテーブル、3列は100mm電動前後調整とヒーティングを備える。全車に49か所の収納スペースがあり、3列シートを倒さずに20インチスーツケース5個を積めるトランク容量と、51Lのフロア収納が確保されている。

先進運転支援と子供向け安全装備

「天神之眼 B」高精度ADASはレーザーレーダー1基とNVIDIA Orin‑Xプロセッサを搭載し、都市航行支援や高速自動運転支援(NOA)を提供。ドライバー疲労検知や生命守護システムも標準装備されている。

さらに、子供用シートは「好孩子」ブランドと共同開発し、通風機能と音声操作で温度調整が可能。これにより、長時間の乗車でも子供の不快感を軽減できる。

課題と今後の見通し

2023年に発売されたN8は「唐」シリーズのリバイバルとして期待されたが、外観リニューアルのみで実質的な差別化ができず、月販売は一桁に留まり、早期に生産終了となった。N8Lは同プラットフォームを全面的に活用し、技術的にはN9に匹敵するスペックを低価格帯に落とし込んだが、二つのリスクが指摘されている。

第一は「易三方」プラットフォームのコスト。全系三電機装備は高性能を実現する一方で、価格を26〜28万円台に下げる余地を狭め、月販1万台という目標に対して価格競争力が不足する恐れがある。第二は消費者が実感しにくい「極限操縦」機能への価値評価である。円規掉頭や蟹行モードは使用頻度が低く、三電機による追加燃費負担が日常コストとして顕在化する可能性がある。

加えて、ブランドイメージは依然として「比亜迪のコスト削減志向」との認識が残り、N9での販売不振の要因ともなっている。N8Lがこれらの課題を克服し、D9が占めたMPV市場の空白とは異なるSUV市場でどれだけシェアを拡大できるかが、腾勢の今後の成長に直結する。

総じて、N8Lは技術・安全・快適・デジタルの全領域で「水桶」的な充実度を示すが、価格設定と市場ニーズのミスマッチが販売実績にどう影響するかは、今後の販売データとユーザー評価に委ねられるだろう。

出典: https://www.ifanr.com/1642518