ラベル バッテリーリース の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル バッテリーリース の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025/10/28

蔚来「楽道 L90」86日で3万台突破 大型純電SUVの現状と課題

楽道 L90 の販売実績と市場の反応

2024年10月25日、蔚来は公式に「楽道 L90」の販売が開始からわずか86日で累計3万台を突破したと発表した。8月1日に出荷が開始されたこの大型SUVは、9月だけで10,997台を販売し、連続数か月にわたり月間販売台数が1万台を超えるという、いわゆる「現象級」の売れ行きを見せている。

大型SUV 市場における「純電」の位置付け

中国の大型家族向けSUV市場は、長距離走行や満載走行といったシーンでの「燃料補給」の確実性が重視され、長らくハイブリッド車や増程(レンジエクステンダー)車が主流を占めてきた。従来の純電SUVは、充電時間が短縮された800V超高速充電技術が導入されても、充電ステーションの混雑や「充電できるかどうか」の不確実性が根強い不安要因となっていた。

「換電」+「バッテリーリース」の二本柱

楽道 L90 が市場で成功した要因は、蔚来が構築した「換電」ネットワークと「バッテリー・アズ・ア・サービス(BaaS)」という二つの仕組みを同時に提供した点にある。換電は、全国の高速道路サービスエリアに設置されたステーションで、約3分でバッテリーを交換できるというもので、長距離走行時の「補給不安」を実質的に解消する。

一方、BaaS によりユーザーは車両本体の価格からバッテリー分の約86,000元(約1,300万円)を除外できる。これにより、購入時の初期コストが大幅に下がり、従来の合資ブランドのコンパクトSUVや、理想(Li Auto)のL6といった中型増程SUVと価格帯が重なる形となった。また、バッテリーはリース形態で提供されるため、数年後のバッテリー劣化による残価リスクも回避できる。

他メーカーの大型SUVと純電比率の実態

同時期に販売された他メーカーの大型SUVを見てみると、純電のシェアは限定的であることが分かる。9月の販売台数上位は以下の通りだ。

  • 問界(Huawei)M8:月間販売21,244台(純電・増程混在)
  • 楽道 L90:10,997台(純電)
  • 問界 M9:10,503台(純電・増程混在)
  • レノボ(Lynk & Co)900 EM‑P:7,319台(増程)
  • 理想 L9:3,787台(増程)
  • 蔚来 ES8:2,803台(純電)

問界 M8 と M9 の純電版販売台数は、9月の実績がそれぞれ2,490台、1,840台にとどまっている。つまり、M8 の総販売台数の約90%、M9 の約80%が増程モデルであることが明らかになる。純電だけで大型SUV市場を席巻できているのは、現時点では楽道 L90 だけと言える。

「純電元年」説への疑問

業界では「2025年が大型純電SUVの元年になる」という声が上がっているが、実際の販売データはそれを裏付けていない。純電SUV が市場シェアを大きく伸ばすためには、単に充電速度を速めるだけでなく、充電インフラの混雑緩和や、長距離走行時の「補給確実性」を保証する仕組みが不可欠である。楽道 L90 の成功は、換電という独自の解決策があってこそであり、他メーカーが同様のネットワークを短期間で構築できるかは不透明だ。

増程車の進化:『増程 2.0』時代へ

純電の課題が残る中、増程車は新たなフェーズに突入している。従来の増程車は、エンジンとバッテリーを搭載するためにリアシートやトランクスペースを犠牲にするケースが多かった。しかし、消費者は「無焦燥」だけでなく、快適な乗り心地や広い室内空間も求めるようになっている。

この流れを受けて、各社は「純電プラットフォーム」上に増程システムを組み込む設計へとシフトしている。例えば、小鹏(Xpeng)は最近、増程版 X9 を発表した。X9 の増程版は、純電版で実現した低重心設計やフラットフロア、アクティブリアステアリング、二重エアサスペンションといった先進的な走行性能をそのまま残しつつ、追加のエンジンと燃料タンクをコンパクトに配置することで、荷室や乗客スペースへの影響を最小限に抑えている。

このように、増程車は「純電の快適性」を踏襲しながら、エンジンによる航続距離の保証という安全策を提供する「増程 2.0」モデルへと進化している。結果として、純電だけで長距離走行に不安を抱えるユーザーは、増程車を選択肢に入れやすくなっている。

今後の大型SUV市場の展望

短期的には、増程車が大型SUV市場の主流を維持すると予測される。特に「全家族の長距離移動」というコアニーズに対しては、ガソリンエンジンと電動モーターのハイブリッド的な「可油可電」特性が最もバランスが取れている。

しかし、楽道 L90 のような純電特例が示すように、換電ネットワークやバッテリーリースといった新しいサービスモデルが普及すれば、純電SUV の競争力は急速に高まる可能性がある。増程車メーカーは、純電プラットフォームの採用や室内空間の最適化といった点で、さらなる技術革新が求められるだろう。

まとめ

楽道 L90 の販売突破は、蔚来が構築した換電とバッテリーリースという二本柱が相乗効果を生んだ結果であり、純電SUV が大型市場で本格的にシェアを拡大するための重要なヒントを提供している。一方で、現時点では増程車が依然として市場の中心であり、今後数年で「増程 2.0」モデルがどれだけ純電の快適性に近づけるかが、競争の鍵を握ることになる。

出典: https://www.ifanr.com/1642222