
イーロン・マスク氏は、SpaceXの次世代ロケット「星舰(Starship)」が実用化されれば、太陽光で駆動する人工知能衛星を大規模に配備できると述べた。これにより、年間1テラワット規模のAI計算資源を宇宙空間で確保する道が開かれると期待されている。
StarshipとAI衛星配備の背景
マスク氏はX(旧Twitter)で、星舰の登場が「大規模に太陽光AI衛星を展開する唯一の道」だと強調した。太陽光は宇宙空間でほぼ無尽蔵のエネルギー源であり、地上の電力供給に依存しないAI計算基盤を構築できる点が大きな魅力だ。彼は「毎年1テラワット(1TW)のAI算力を宇宙に配置できる」ことを目標に掲げている。
SpaceXの軌道輸送シェアと将来予測
IT之家の報道によれば、マスク氏は2025年現在、SpaceXが全世界の軌道有効ペイロード打ち上げの90%以上を担うと予測している。そのうち中国は約5%を占め、残りの5%は米国の他企業や世界各国が分担しているという。
さらに、星舰が高頻度で再利用可能になると、SpaceXは全球の99%以上の軌道輸送を担えると見込んでいる。これは火星への大量輸送を前提とした「火星植民計画」にとって不可欠なインフラとなる。
地上AIスーパーコンピュータの電力課題
マスク氏が率いるxAIは、米国テネシー州に「百万GPU」規模のスーパーコンピュータセンターを建設中である。しかし、同センターは電力供給に深刻な不足を抱えており、追加の発電設備が必要とされている。地上での膨大な電力需要は、太陽光AI衛星への関心を高める要因の一つとなっている。
宇宙データセンターを目指すスタートアップ
同時期に、複数の宇宙系スタートアップが軌道上にデータセンターを設置し、太陽光でAI計算を賄う構想を進めている。たとえばStarcloudは、簡易版AIモデルを運用する小型衛星を打ち上げ、将来的にはギガワット級(GW)規模の軌道データセンターを構築することを目指している。
これらの企業は、地上の電力コストや冷却問題を回避し、宇宙空間の低温環境を自然な冷却手段として活用できる点を強調している。太陽光パネルと高効率の電力変換技術を組み合わせることで、持続可能なAI計算基盤の実現を狙っている。
火星移住計画との関連性
マスク氏は、星舰が2026年末に「擎天柱(Optimus)」ロボットを搭載して火星に着陸させる計画を示唆した。また、2029年から2031年にかけて有人火星ミッションを実施する可能性も示している。これらのミッションにおいて、現地でのAI計算資源が不可欠になることは明らかであり、太陽光AI衛星は火星基地への電力・計算供給手段として期待されている。
さらに、火星への長期的な自給自足を実現するためには、地球からの継続的な資源輸送だけでなく、現地でのエネルギー自給が必要になる。星舰が大量に太陽光AI衛星を軌道に配置できれば、火星への電力・データリンクを確保し、基地建設や資源探査を支援できる。
このように、星舰の実用化は単なるロケット技術の進歩に留まらず、AIインフラの宇宙展開という新たな産業領域を切り開く可能性を秘めている。中国を含む各国の宇宙企業やAIベンチャーは、今後の市場競争に備えて技術開発を加速させるだろう。