2025/11/07

AI大言語モデルの信念と事実判別の限界 2025

研究の概要

米スタンフォード大学の研究チームは、ChatGPT をはじめとする 24 種類の大規模言語モデル(LLM)に対し、ユーザーの個人的信念と客観的事実が食い違う状況での応答精度を検証した。2025 年 11 月 3 日に『Nature Machine Intelligence』に掲載された本論文は、AI が「信念」と「事実」を安定的に区別できないことを示した。

研究では、13,000 件に上る質問を投げかけ、モデルが事実か信念かを判別する能力を数値化した。結果は、最新モデルでも信念の誤認率が高く、特に虚偽の第一人称信念(例:\"私は○○だと信じている\")に対する識別が著しく低下した。

実験結果と課題

信念と事実の識別精度

最新モデル(2024 年 5 月以降にリリースされた GPT‑4o など)の事実判定正確率は 91.1%〜91.5% と高い一方で、第一人称の虚偽信念を正しく認識できる確率は、同モデルで実際の信念に比べて 34.3% 低下した。旧世代モデル(GPT‑4o 以前)ではその差が 38.6% に達した。

具体例として、GPT‑4o の全体的な正確率は 98.2% だったが、虚偽信念に対しては 64.4% にまで落ち込んだ。DeepSeek R1 は 90% 超の正確率から、虚偽信念に対しては 14.4% という極端な低下を示した。

中国AI企業への示唆

本研究は米国の大学によるものだが、同様の課題は中国のAI企業にも共通している。中国では大手テック企業が自社の大言語モデルを次々に発表し、法務・医療・ニュース配信といった高リスク領域への応用を試みている。しかし、信念と事実を混同するリスクは、規制当局の注意を引く可能性が高く、特に中国政府が AI の「安全性」と「倫理性」を強化する方針を示す中で、モデルの信頼性向上は急務となっている。

例えば、百度が提供する Ernie 系列や、阿里巴巴の M6 系列は、国内外での実証実験で高い生成性能を誇るが、同様の信念判別テストが不足しているとの指摘がある。中国の AI 産業団体は、スタンフォードの研究結果を踏まえ、モデル評価の標準化や第三者検証機関の設置を検討している。

今後の課題と業界への影響

研究者は、LLM が知識の「真実性」特性を十分に理解できていないことが根本的な課題であると指摘する。特に法律、医療、報道といった領域では、誤った信念がそのまま誤情報として拡散し、重大な社会的損害をもたらす恐れがある。

対策としては、モデル内部に「事実チェック」モジュールを組み込む手法や、外部知識ベースとリアルタイムで照合するハイブリッド構造の導入が提案されている。また、訓練データの品質管理と、信念と事実を明示的にラベル付けしたデータセットの拡充が求められる。

さらに、AI の導入効果が企業の投資回収率に結びつかないケースが増えていることを示す MIT の調査結果(2025 年 8 月)と合わせて考えると、単にモデルを大きくすれば性能が向上するという従来の考え方は限界に達している。AI インフラの最適化や、業務フローとの統合を重視した実装戦略が、今後の競争力の鍵となるだろう。

結論として、AI 大言語モデルは依然として「信念」と「事実」の区別に弱点を抱えており、特に高リスク領域での実装には慎重な評価と継続的な改良が不可欠である。中国の AI 企業も、国内外の研究成果を取り入れつつ、モデルの安全性と信頼性を高める取り組みを加速させる必要がある。

出典: https://www.ithome.com/0/895/526.htm